靴を買いに行った時に起きたゲリラパレード



靴を買った。


VANSの。
なんか新作的なやつ。


やっぱり
VANSの安心感たるや半端無い。
スニーカーにおけるVANSは
さながらバラエティ番組における
有吉弘行にも匹敵する。




にしても、靴を買う工程において、
持ち前の詰めの甘さが
如実に出たのでここに執筆したい。




俺の愛すべき大阪の
天王寺という街には
ABC-MARTが3つもある。
多くない?
ABC-MARTがこんなに密集している
地域なくない?
ABC-MARTはひと地域に2つまでって
社会の教科書に載ってた気がする。
法に触れている。
ヤベェよ天王寺



その3つの店舗のうちの
1番広い店が好きだ。
そこである程度事前に目星を
付けていた。その日は財布に
お金が入っていなかったので、
後日に買うことにしていた。



そして来るべき当日、
目覚めと同時に込み上げた。

今日はあの靴を買う。
あの靴を買うためだけの今日。
それ以外の行動はまるで虚空。
一切の余念は許されない。

そんな気概を携えた
いつもよりも勇ましい
俺の横顔を見て欲しかった。

ほどなくして
ABC-MARTに到着した。




あったあった、あれだ。
迎えにきたよ、VANSちゃん。



ものの10秒で店員さんに
『これの27.5ありますか?』
と問い尋ね、
手配をしてもらった。



順調だ。

普段、優柔不断過ぎて
店内に居座る時間が長過ぎる事で
名を馳せている
この俺が、こうもスマートに
事を運ばせている。


いや、当然かもしれない。
なにせ、
今日は靴を買うためだけにある日だ。




しかし問題はここからであった。



おもむろに靴を履き替えようとした
その刹那、



俺の左右の靴下の色が違った。



同じ種類だけど、色違いだった。



甘い。
詰めが甘すぎる。





そう。



Hazuka-She








ハズカシーのである。





当然だけど、店員さんに見られてる。
店員さんは表情1つ変えなかったが、
恐らく内心では『うわダサっ』の
パレードだろう。
もう『ダサい』と書かれた
旗的なやつと共に着ぐるみとか馬とか
セクシーな女性たちが
踊り狂ってるパレードだ。






無理もない。



突如として
靴下左右色違い男が爆誕したのだ。



あれだけ手際の良い男感を
出しておいて、このザマである。


俺はもう、心の中は
弁明の言葉を探るのに必死だった。

左右色違いって今トレンドで、
前衛的ファッションの地、
原宿で買いました。
たぶんりゅうちぇる辺りが
流行らせたんじゃないですかね。
慣れると良くないですか?
むしろこれがスタンダードじゃないですか?
え、お姉さんまだ一色靴下ですか?
靴屋さんとしての自覚ありますか?



という、雰囲気を出した。
もちろん、言葉には発してない。



伝われ、この雰囲気と思った。



当然そんな気色悪い雰囲気が
伝わるはずもなく、
残された俺の挽回策は
1秒でも早く
『これ買います』を放つ事だ。


これで迷った素ぶりや
やっぱり辞めます
などと言ってみようものなら
ヤバイ事くらいは分かる。


ただ靴下の左右色違いを見せつけにきた
終わってる人間
になってしまう。



だから俺はもう瞬時に
これ買います!と言った。


店員さんも
『あ、ありがとうございます』
と、すこし呆気にとられた
様子だった。



俺はさも何事もなかったのごとく
支払いを済ませて店を出た。




帰る道中、
ひょっとすれば靴屋の店員さんから
してみれば
靴下の左右色違いの客なんて
日常茶飯事かもしれないな、
と思い込むようにした。




あの店員さんの心の中のパレードが、
1秒でも早く終わりますように。